ピチャリ...







ぬるり、とした重い液体。





――なに…これ……



























横たわッているのは、愛しの彼。



――ウソだ…




















触れても、温度がない。



――嫌だ

























彼を中心に広がるアカ。






















赤い、紅い





























「ぁ……あ……ッうああぁぁぁあぁぁ!!!!!!」


























「骸!!」




暗い廊下。

一人息を切らして走っているのはボンゴレ10代目、沢田綱吉。





目には涙を溜め、愛しい人の名を繰り返し呼び続けている。

月がよく見える夜中。ただただ走り続けて、骸を捜している。





夢で見た、、、冷たい、動かなくなった…彼。



嫌に手に残る感触。



早い鼓動に胸を抑えて、彼の部屋に足を進ませた。





彼は強い。

それは、十分に承知していること。



でも、綱吉の頭に繊細に残るヴィジョンが離れない。






「骸……ッ」





暗い廊下。

静かな屋敷に綱吉の声だけが響き渡る。


顔を床におろして、涙をぬぐう。




それでもあふれてくる涙は床を濡らしていく。









「どうかしましたか?…綱吉君」






暗い廊下の先から聞こえる透き通るような声に、綱吉は俯いていた顔を上げた。



近づいてくる足音。

月の光に照らされて見えてくる姿に一層涙を増やした。






「骸……ッ骸!!」













綱吉君に言われた書類も終えて、欠伸ひとつかいた。

眠さが増してくる。



壁に掛けてある時計に目を移して。


時刻は夜中の2時30分をまわろうとしている。



そろそろ寝ようかと椅子を引いてベッドに足を向かわせたときだった。







「骸!!」







自分を呼ぶ声に、ピタリ、動作が止まる。



この声は間違えもしない、綱吉君の声。





どこか焦っているような声に、ベッドに向かわせていた足をドアの方に向けた。

カチャリ、扉を開けて暗い暗い廊下の先を見てみる。



どちらに向けても綱吉君の姿はない。

だが、走るような足音と、こんな静かな夜だから聞こえてくる荒い息遣いの声。



いつもと様子が違う綱吉君に、僕は廊下に出て綱吉君を探し始めた。








「骸……ッ」






悲しそうに呼ぶ名前に、少しだけ焦りを感じた。

今にも消えそうな声は異常だ。



歩き続けて、廊下の角をまがったときにみえた、月の光で丁度見える綱吉君の姿。

俯いている彼の肩が震えているのが、ここからでもよく見えた。



僕は一歩一歩、綱吉君に近づいて。






「どうかしましたか?…綱吉君」






優しい声で、彼の名を呼んだ。

ピクリ、と跳ねた綱吉君はゆっくりと顔を上げる。



彼は、泣いていた。



頬を伝って流れる涙は床に落ちてシミを作る。

そこまで泣く綱吉君を見るのはどの位ぶりだろうか…いや、初めてかもしれない。







「骸……ッ骸!!」





安堵したかの様な顔で、僕にかけてきた。

飛びついて来た綱吉君を腕でそっと包みこんで背中をポンポン、と優しく叩いてあやす。



震えている身体に一瞬手が止まるが、綱吉君の手は僕の背中をギュッとつかんで離さなかった。





「綱吉君…どうしたんですか?」




聞いても、僕の名前をうわ言のように言い続けて話も成り立たない。

しばらくそのままにして、綱吉君をあやしていると、少しだけ手の握る強さがゆるんだ。


同時に僕の胸板に押し付けていた綱吉君の顔も少し離れた。



僕は彼の顔を覗き込んでまだ残っている涙を拭ってやる。

俯いている綱吉君の眼は充血していて、泣き続けていたのを教えてくれる。



目を擦ろうとする彼の手を掴んで制止し、僕の袖で涙を拭いた。






「目を擦ったら赤くなってしまいますよ?」




ね?


と微笑んでみれば、綱吉君はまた涙をためた。

本当にどうしたというのだろうか。




動きそうもない綱吉君を抱きかかえてまず自分の部屋に運んでおく。

いつもはジタバタと暴れる彼はいない。



静かに僕の首に腕を巻きつけて肩に顔を乗せて静かにしている。





器用に片手で扉を開けてベッドに運び、ゆっくりと腰を下ろす。






「落ち着きましたか?綱吉君。」

「…………」

「どうしてこんなに泣いているんですか?」


「…骸………死ぬ……夢見、て……」






僕が死ぬ?





「大丈夫です。僕はここにいますよ」

「でも、血が…肌も…冷たく、て……」





カタカタと震えながら自分の頭を抱える綱吉君。

僕は、彼の手を掴んで、僕の胸に手をあてた。




「温かいでしょう?心臓、動いているでしょう?」

「……ぅん…」

「僕は死にませんよ。綱吉君を残して、死んだりしません。」





綱吉君の顎に手を添えて、僕と向き合わせて。





「骸……んッ……」







唇を重ねた。



触れるだけのキス。

綱吉君が口を開いたと同時に僕の舌を滑り込ませて、綱吉君の舌とからませる。




何度も角度を変えて…綱吉君をベッドの上にゴロン、寝させても続ける。

綱吉君の上に乗っている僕は頬に残る涙の後を指の腹で拭き取って、瞼に口づけをする。




指を絡め、再び唇を重ね。







綱吉君が落ち着くまで僕はコワレモノを扱うように、優しく抱いた。














ベッドに横になって、僕は綱吉君を包むように寝ている。

小さな鳴き声ももう聞こえませんし。





「落ち着きましたか?」

「ご、ごめんね…骸……」




ははは


と乾いた笑いを口にしているが、まだ震えていた。

その証拠に未だ微かに震える綱吉君の手を僕は自分の手で覆う。







「情けないよね…この歳になってあんなに泣くなんて。」

「僕は、うれしかったですよ?」





だって、僕が死ぬという夢でこんなに泣いてくれた。

それだけ、綱吉君は僕のことを思ってくれているんでしょうから。





「うーん…リボーンが知ったらまた怒られそうだけどね。」

「クフフ。アルコバレーノはきっと何も言いませんよ。寝ているでしょうし」

「そっか…うん、よかった。」





ウソですけどね。



綱吉君を抱き上げて、廊下を歩いている時に気配がありましたからね。

でも、来る気配はなかったですし、何も言う風には見えませんでした。



逆に、あなたは気づかなかったかもしれませんが、獄寺隼人や山本武も近くまで来てたんですよ?

アルコバレーノに止められて部屋にUターンしたようですが。






「ねえ、骸。」

「はい、なんですか?」

「このまま…一緒に寝ていい?」





ごろん、寝返って僕の方を向いた。





「ええ、構いませんよ」





綱吉君の額にキスひとつして、僕たちは意識を沈ませた。










(綱吉君。落ち着きましたか?)(うん、ごめんね…)(あなたのためなら)




END...

08,08,23