俺がここに来たのはお前に会うため。
確信はないけど・・・・・
やさしいナミダ
空を見上げれば清んだ青い海のような世界が広がっていた。
一羽の鳥が羽ばたいている。
地上でうなだれている一人の少年、日番谷はその鳥から視線を外し、眉を寄せた。
成体の破面が現世に現れてから送られて来たのはついこの前のこと。
現世に来て早々戦うはめになってしまった。
正直、準備不足だった。限定解除なしでも倒せる相手だと、思っていた。
負傷したところは井上によって跡も残っていないが、
日番谷が倒した破面、シャウロン・クーファンに苦戦し自分の無力さを思い知った。
(限定解除なしで雑兵さえ倒せねぇとはな・・・一歩間違えればやられたのは俺らだった)
日番谷は空に手を突き出す。
何も掴めないその手はそのまま自分の視界を閉ざした。
「・・・・・くそっ」
尸魂界、四十六室の全滅、藍染の生存、市丸の裏切り・・・
日番谷が気がついた頃には全てが終わっていた。
藍染、東仙、そして市丸が虚圏へ行ってしまった後。
最後に見た市丸は、とても悲しそうな顔をしていた。
(ずっと一緒だと思っていたのは俺だけなのか?)
「・・・・市丸・・・・」
「なんや、随分と愛おしそうに呼んでくれるんやね」
閉ざしていた視界を一気に広げ、日番谷が声の方を向くと同時に距離をとった。
死神の姿へと戻った日番谷と、義骸に入っているキング。
斬魄刀を構え、切っ先を市丸に向けた。
気が緩んでいたとはいえ、近距離で気付かなかったことに内心舌打ちをした。
日番谷は市丸を目掛けて斬魄刀を振るが市丸は紙一重でかわしていく。
それから日番谷の一方的な攻撃は続くものの、斬魄刀はおろか、鬼道すらしてこない。
ひたすら避けるだけ。
「・・・・っ・・・何がしたい!!市丸っ!!!!」
叫びながら振り落とす斬魄刀を、市丸は振り切る前に日番谷の腕を掴んだ。
ただ、無言のまま日番谷を見るだけの市丸に、日番谷は顔を歪めた。
倒さなければならない、敵。
わかっているのに、本気でそれをすることなんて・・・できない。
最初からわかってた。市丸を斬ることなんて、俺にはできないことくらい・・・
「・・・・なんか言えよ!!なんで、・・・っなんで俺を置いてったんだよ!!!!」
今にも泣きだしそうな日番谷に市丸は、無表情の顔を少しだけ崩した。
それも、誰にもわからない程度に。
「独りに、すんなよ・・・」
一筋の涙が頬をつたった
痛みの走る身体が、夢ではないと教えてくれる。
藍染に斬られた傷口が悲鳴をあげて、安静を要求してくる。
痛みをこらえ、辺りを見回せば4番隊の隊舎だとわかった。
鼻にツン、と来る消毒の匂い。
「起きられましたか?・・・日番谷隊長。」
「・・・卯ノ花。・・・・・あの後どうなった。」
無言で俯く卯ノ花を見て、藍染たちが抜けたことが、いよいよ確信となった。
「・・・・・そうか。」
強く手を握った。
爆発しそうな感情を抑え、日番谷は冷静になろうと一呼吸してから卯ノ花に告げた。
「まだ寝たい。・・・・独りにしてくれ。」
「わかりました。何かありましたら呼んでくださいね」
にっこりと日番谷に笑顔を向け、卯ノ花は病室を後にした。
物音一つしない病室
窓を通して見た空は、いつもより寂しく感じた。
(・・・・・市丸・・・・)
ベットの上で蹲り、涙をこらえた。
誰にも見られないように。
隠れて、閉ざして。
いつも、怪我したと知れば飛んで来てくれた市丸の姿はない。
『ふゆ!!怪我したとこどこや!?』
「大したことねーよ、大げさだな・・・ちょっと切っただけだ。」
『他に怪我したところないかチェックや!!』
「やめんかボケ!!」
そんな声は、記憶の中の思い出。
心配してくれる彼は、もう、此処にはいない。
<会いたかった。現世に行けば、会えると思ったから。>
(会いたくなかった。どんな顔をして、会えばいいのかわからなくて。)
<連れてって・・・って言いたくて・・・伝えたくて。>
(悪態しかつけなくて・・・本当のキモチが言えない気がして。)
<とても、泣きそうで・・・・>
(とても、泣きそうで・・・)
「ごめんなァ・・・」
全身で呼吸をしている日番谷の頭に何かが乗っかった。
謝られることで更に込み上げてくる涙が、頬をつたって地面に落ちていく。
「っ、・・・俺は、市丸がいれば・・・・ギンがいればそれでよかったんだ。
お前に置いていかれて、どれだけショックだったか・・・・」
震える手。震えるコエ。
迫力のない日番谷の声が、更に弱々しく響く。
「てめーにわかんのかよ・・・・・・・ギン・・・・・」
―――会いたくて、会えなくて、皆に言えなくて・・・・苦しくて・・・・・
――諦めきれない自分が、ここにいて・・・・
斬魄刀を握る力さえなくなった日番谷の斬魄刀が、滑るように落ちていく。
「わざわざ俺に別れを言いに来たのかよ・・っ・・・」
斬魄刀が、カシャンと音を立てて地面に横たわった。
市丸が日番谷の前でしゃがみ、零れおちていく涙をすくった。
「寂しい思いさせたなァ。
今日ボクが冬の前に来たんはお別れを言いに来たんやない。
・・・・冬を迎えに来たんや。
ボク、冬おらんと嫌やし」
日番谷が顔をあげればそこには市丸の優しい笑顔と、自分の頭に乗っている彼の大きな手。
「・・・本気で・・・・・・言ってんのか?」
「嘘言うてどないすんの。」
市丸はため息一つし、キョトンとしてる日番谷に続けて言った。
視線をどこかに向け、にんまりと笑みを浮かべ
「今、藍染はんが一護チャンを迎えに行っとるはずなんやけど。
ボクと冬みたいにラブラブやないから大変やろなぁ・・・」
半分強制やろうな、と言いながら市丸が視線を戻すと、未だに下を向いたままの日番谷。
それに苦笑しながら日番谷の斬魄刀を拾った。
「いつもみたいにつっこまへんの?淋しいんやけど・・・?」
それでも沈黙を続ける日番谷の顔を市丸が覗いた。
「なんや、うれしゅうて泣いとったんやね。」
「・・・・うるせぇよ・・・////」
顔を赤く染めた日番谷は市丸に泣き顔を、赤くなった顔を見られないようにそっぽを向くが、無駄となってしまった。
クスクスと笑いながら市丸が日番谷の斬魄刀を丁寧に鞘に戻してあげる。
「ほな、帰ろうか」
小さい手は市丸の大きな手と重なり、歩きだした。
「これからは一緒や・・・・・冬。」
〜〜おまけ〜〜
数日後…
市「なぁなぁ冬〜・・・」
日「?なんだ、市丸」
市「これからはギンっていうてv」
日「・・・・・・・・・・却下」
市「あ!冬〜赤ぅなっとらんで呼んでやぁ」
日「しつこいぞ、市丸!!て、追い掛けてくんな!!」
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裏話へ行く。(ギャグです。)
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あとがき
二人の(吹き出しそうな)血と(苦戦の)汗と(やっとできたという)涙の結晶。by黒羽
我侭聞いてくれてありがとです(感涙)満足満足♪ byゆらね